『英国王のスピーチ』

英国王のスピーチ』(King's Speech、トム・フーパー監督、2010年)

吃音の国王ジョージ6世(最初は王位継承第二位、そのあと第一位、そして、王)と、彼のスピーチセラピスト(ジェフリー・ラッシュ)の物語。実話に基いている。

王のコリン・ファースは、姿勢がよい。お得意の全身演技。ほかの映画(ブリジット・ジョーンズとか)でときどき見せる、怒りで肩を揺らしてあるく後姿は今回はなく、もっとびしっとしています。父ジョージ5世(マイケル・ガンボン)や兄エドワード8世(ガイ・ピアース)との関係を振り返り、また、父の死、兄の廃位をめぐって話が進みます。

王室の発音(とくにコリン・ファースと妻役のヘレナ・ボナム・カーター)は、母音が狭い(唇の開きが狭い)のが特徴的。This country is at war.のatがエト。hasがヘズ。toldがテウルドなど。

(あと、ジェフリーラッシュの発音だったと思うのだけれど、herringがヘリングでなくてヘアリングだったような気がするーいくつか発音辞典や研究書をめくってみたけれどわかりませんー。要継続観察ー)

以下、詳細について触れています(若干ねたばれ)

英国王のスピーチ コレクターズ・エディション [Blu-ray]

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ジェフリー・ラッシュ演じるスピーチセラピストはオーストラリア出身。彼のクリニックには、Australia is calling you.というポスター(移民奨励?)が貼ってあります。また、映画冒頭で、彼はhubbieという言葉を使い、これに対してヘレナ・ボナム・カーターが眉をひそめるシーンがあります。これはhusbandの略形でオーストラリア的。

18世紀後半以降のイギリスでは、発音矯正(elocution)による社会階層上昇をめざす人が多く、発音辞典や発音矯正講座がそのために利用されました。なので、この映画も、そういう、エロキューション系の話かと思っていたがーそうではありませんでした。むしろ、スピーチ・セラピストは自分の発音さえ直せず苦心しているという皮肉な設定でした。

1940年代のロンドンで、豪州からわたってきたマージナルなセラピストが、国王という権力の最高峰にもっとも近い位置につく。構造的には、セラピストよりもはるかに上位にいる人たち―英国国教会大司教デレク・ジャコビ)は、これがおもしろくないー、そういう位置関係がおもしろいですー。