『アメイジング・グレイス』

アメイジング・グレイス』(Amazing Graceマイケル・アプテッド監督、2006年)

西洋史の同僚にイギリス映画のDVD『アメイジング・グレイス』を貸してもらったので、クリスマスの日に見ました。19世紀イギリスで、議会における奴隷貿易廃止(Abolition)運動の中心となったウィリアム・ウィルバーフォース(1759-1833)の半生を描いた映画です。


イギリスでは、16世紀から続いた奴隷貿易(アフリカから奴隷を西インド諸島に運び、砂糖きびなどプランテーションの労働力とする)が、1807年の奴隷貿易廃止法成立で、ようやく終わりました。この映画がイギリスで公開された2007年は、奴隷貿易廃止法成立後200年という年で、記念式典でトニー・ブレア首相(当時)が悲しみの意を示しています。The slave trade was a profoundly inhuman enterprise and the bicentenary provides us with an opportunity to express our sorrow that it happened. It also enables us to remember those who suffered and who campaigned for abolition, and to re-double our efforts to address the legacy of the slave trade and to tackle injustice in the world today.(このサイトから引用)。


映画タイトルの「アメイジング・グレイス」を作詞したジョン・ニュートン(演じるのはアルバート・フィニー)の奴隷貿易との関わり、彼がウィルバーフォースに与えた影響も物語の重要な一部です。

アメイジング・グレイス』では、奴隷貿易廃止法案を提出しては反対多数で廃案にされるウィルバーフォースの試行錯誤が描かれています。アメリ奴隷貿易廃止反対派の論理、奴隷貿易の廃止がイギリスの国力低下につながるという議論が有力である様子が描かれており、フランス革命期からナポレオン時代の英仏の緊張、敵対関係が、背景にあることがよくわかりました。

日本では来年3月の公開。アプステッド監督の『ナルニア国物語第3章 アスラン王と魔法の島』公開と合わせてでしょうか。本田美奈子さんの「アメイジング・グレイス」がこの映画のイメージソングに選ばれたそうです。イギリスの歴史映画(period piece films)が好きな人に、お勧めの映画です。

アメイジング・グレイス2008

アメイジング・グレイス2008

主演のIoan Gruffuddは仮名表記では「ヨアン・グリフィズ」。ウェールズ出身の俳優で、ウェールズ語ではddが英語のthの音になり、またuが[I]などの音になるのでGruffuddでグリフィズ。

発音的には、parliamentの二つ目の母音があいまい母音ではなく、二重母音になっている箇所が印象的でした。ハロー校出身のベネディクト・カンバーバッチの個人の発音なのか、それとも、小ピット役としての発音なのかー。

・・・それから、この映画終盤でNoblesse Obligeノブレス・オブリージュ、貴族の義務)という言葉が使われるのですが、その負け惜しみ的な使われ方が、ああそうそう、この言葉はこういう風に使ってこそ生きるよね、と私的に納得いくかんじでした。構造的な絶対的強者の鼻もちならない自負、またはそれへの批判、揶揄。そうしたものを無視して日本語で日常づかいされることが多く、そのたびに、うーん、それくらいでノブレス意識なわけ?などと(ひがみっぽく)思っているので^^;