『ノッティングヒルの恋人』の日本人ビジネスマン

科研費研究課題「世界諸英語に関する理解を深めるための映画英語教育」2014年度活動報告書』(印刷中)に、「映画のなかのジャパニーズ・イングリッシュ」という短い論考を書きました。昨年8月2日に行ったシンポジウム「日本人の英語はどう聞こえるか?―世界諸英語の時代のジャパニーズ・イングリッシュ」での発表に字句修正を加えたものです。

映画のなかのジャパニーズ・イングリッシュの扱いを3パターンに分けて紹介したものです
(1)『ノッティングヒルの恋人』のビジネスマンのような戯画化された滑稽な日本人ビジネスマンの英語。
(2)『ラストサムライ』の勝元のようなハリウッドスター的日本人の英語。
(3)邦画のなかで国内向けの笑いのタネとしての上手とはいえないジャパニーズ・イングリッシュ。

報告書からの抜粋して、順に説明します。まずは(1)。

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「映画のなかのジャパニーズイングリッシュ」山口美知代
科研費研究課題「世界諸英語に関する理解を深めるための映画英語教育」2014年度活動報告書』(22-27頁)より引用

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日本人の英語が映画に出てくる場合、どのような感じであるかを、パタンを3つほど挙げながらお話ししたいと思います。
 日本人の英語が聞ける映画を探してみると、古くからある日本人のタイプは、メガネをかけたり、カメラを持ったりした観光客や、スーツを着た生真面目なビジネスマン、サラリーマンのイメージです。

 最初に、『ノッティングヒルの恋人』(原題:Notting Hill)という1995年製作のアメリカ映画から、1分ほどの映像をご覧いただきます(註:シンポジウムでは映像紹介)。ロンドン西部にあるノッティングヒル舞台で、イギリス人俳優ヒュー・グラントが、主人公の書店主ウィルを演じています。見ていただくのはこの映画の最後の方で、ウィルが、自分の好きな女性アナがどこにいるのかを探している場面です。彼は、ジュリア・ロバーツ演じるアナがこのホテルにいるのではないかと思っています。ただ、アナは有名なハリウッドスターなので、偽名を使ってチェックインします。どういう偽名でチェックインしたのかを、何とか聞き出そうとあれこれ例を出して頑張っているのです。
 
ホテル従業員:There was a Miss Hokapontas.
(略)
ウィル:Thanks. (喜びのあまり従業員の頬にキスをする)
ウィルの友人: Thanks.(同じく従業員の頬にキスをする)
日本人ビジネスマン:Konnichiwa.(従業員の頬にキスをする) My name is Takiyama.

この人は、俳優の雰囲気からすると、日本人というよりインド系の人のように見えますが、最初に “Konnichiwa”(こんにちは)言い、 “My name is Takiyama” (私の名前はタキヤマです)と名乗っているので、明らかに日本人ビジネスマンとして描かれています。見ていただいたように、ホテルのフロントマンの厚意でアナの居場所を聞き出すことができて感激したウィルは、カウンター越しに飛びあがってフロントマンにキスをします。これを見ていた「日本人ビジネスマンのタキヤマさん」は、飛び上がってキスをするのがマナーだと思い、自分もこれを真似るのです。タキヤマ氏には、ほとんど英語の台詞はありませんが、こうした滑稽な、笑いの対象となるような日本人ビジネスマン像は、ハリウッド映画などでよく見られる日本人像です。[引用終わり](続)

(『ノッティングヒルの恋人』DVDは、英語字幕のついたものが2013年に発売されました。古いものは日本語字幕だけなので、英語学習にはぜひ英語字幕ありのほうでぜひ!)