アイザックピットマンの速記研究と綴り字改革運動
大阪で開かれた第37回速記懇談会/第4回速記・言語科学研究会で、「アイザック・ピットマンの速記研究と綴り字改革運動」という研究発表をしました。
速記懇談会は、プロの速記士のかたがたの研究グループで、いろいろな意味で、とても勉強になりました。たとえば、記録にかんして。会合が開かれたのは普通の会議室なのですが、みなさん、ボイスレコーダーを持参されているだけでなく、それぞれの席に小型マイクがおかれ、それが、ひとところにつながれて、懇談会全体が録音されていました。このデータは、欠席者の希望者に有料送付されるそうです。
携帯電話の日本語入力を高速化するための技術についての発表や、速記による記録の過程で収拾された「類音語」例についての発表も大変おもしろく伺いました。(→長谷川義央著『だじゃれ日本一周』を思いだしました)
速記については、実用的な勉強を基礎だけでもしなければと思っています。書くことを重視するなら、V式速記(考案者の小谷征勝先生に今回大変お世話になりました)、速記符号についての研究に結び付けるなら中根式速記がいいのでは、というアドバイスをいただきました。
アイザック・ピットマン(1813−1894)が、1837年に考案し、その後も改良を重ね普及につとめた速記フォノグラフィーは、明治期の日本の速記考案にも大きな影響を与えています(『日本速記事始―田鎖綱紀の生涯』『速記と社会―古代ローマから21世紀へ』参照)。懇談会では、兼子次生先生が、「ピットマン式が日本の速記に与えた影響について」、という主題で発表されました。
私は、速記考案者としてのピットマンには、綴り字改革論者としての側面もあり、また、菜食主義・禁酒主義を順守したほか、当時はとても珍しかった火葬や、予防接種、また、十進法通貨など、多くの「社会改良思想」に共鳴していた飽くなき改良主義者であったことについて、時代背景をお話しました。
私の発表は、拙著『英語の改良を夢みたイギリス人たち―綴り字改革運動史1834-1975』(開拓社)第1章の内容をもとにした内容です。新しい内容として、内外学校協会のアーカイブで閲覧したアイザック・ピットマンの父サミュエル・ピットマンの書簡と、ピットマンが、メイドのマーサと親密な関係で、妻にわからないように速記で恋文をやりとりしていたとことがわかったという、Shorhand Romance(速記ロマンス)を取り上げた2001年の地元新聞記事などを紹介しました。記事を教えてくれたバース大学ピットマン・アーカイヴのアーキビストさんは、記事はちょっと書き込み過ぎではーと言っていましたが、お話としてはおもしろい。記事を書いたTony TriggsはOxford Dictionary of National Biographyでアイザック・ピットマンの項目を執筆しています。
発表については、出席のかたから、速記のプロフェッショナルならではのコメントをいただきました。たとえば、バーナード・ショーが速記で創作し、秘書に清書させたというが、他人の書いた速記録を反訳するのはかなり難しいと思うがー、というご指摘。また、独自の英文速記を考案された方からの、発音記号との関連性についての質問など。とても勉強になりました。ありがとうございました。
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