『医者のジレンマ』

ナショナルシアターで、バーナード・ショーの『医者のジレンマ』(The Doctor's Dilemma, 1906)を見ました。演出、ナディア・フォール。

ナショナル・シアターのショーといえば1992年の暮れに、『ピグマリオン』(アラン・ハワード主演)を見たことがきっかけで、ロンドンにくると芝居(ミュージカルよりもストレートプレイ)を見るようになりました。でも、なんだかんだ言って、ショーの芝居で上演されているのを見るのは、『ピグマリオン』以来初めて、二作目なんだと思います。戯曲を読んだり、『ピグマリオン』や『マイ・フェア・レディ』の映画DVDを見たりしているので、なんとなく、もっとなじみがあるように思っていましたが。実際は二作目。

結核の治療法がなかった20世紀初頭のロンドンが舞台。(ストレプトマイシンの発見は1943年)主人公の医師は、独自の実験的治療法を行っていて名医の評判高いのですが、患者は10人までしか受け入れません。そこに、自分の夫を救ってほしい、彼は天才画家だからと頼みに来た美しい女性。美しい彼女の懇願にほだされるように医師は治療することを承諾するのですが。実はこの「天才画家」なる若い男性は、女癖が悪く、浪費癖、虚言癖があることがわかりますー。限られた人数にしか施せないという治療を、この画家に施すべきなのかー。施さないのは簡単だが、そうすると、それは画家への嫉妬、そしてその美しい妻への思慕から、画家を見殺しにすることを選んだことにならないかー、という意思の葛藤。

第一幕第一場はナイト爵に叙せられた主人公(アーデン・ジレット)を祝いに訪れるアッパーミドルクラスの医師たちの業界談義。(→ここが長くて、まあ、台詞の応酬としておもしろいのでしょうが、いつになったら本筋が始まるのかーと思ってしまいました)。後半でようやく女性(ジェネヴィーヴ・オライリー=ダイアナ妃映画でダイアナ役を演じたひと)登場。第二場は、女性と夫である画家(トム・バーク)を交えての医師たちのディナー。ここで、画家のいかがわしさが暴露されてきます。そして幕間。

第二幕第一場は画家のアトリエ。画家に腹を立てた医師たちが抗議におしかけます。第二場も画家のアトリエ。病状が急変しています。第三場は画家が亡くなったあとの展覧会。ギャラリーで医師と画家の妻が出会い、医師はそこで初めて自分の思いを口にするのですがー。

医師仲間のひとりが、ハリウッド映画でもよくみるマルコム・シンクレア。よくしゃべる陽気で軽薄な成功者タイプで、なかなか場をさらっていました。

客席には高齢の方が目立っていました。ナショナルシアターだからなのか、ショーだからなのか。ストレートプレイの客層はミュージカルに比べると年齢が高い感じはありますが、今回はちょっと際立った感じでした。バーナード・ショーというのは、ショーの芝居だから、ということで見に行くひとがいる感じでしょうか。ストーリーとしては、歴史的コンテキストにおいてみないと、ちょっと理解しにくいというか、おもしろさの感じにくい話であるように思いました。『ピグマリオン』では、音声学者の仕事というのが極端に誇張されて描かれていて、そこにおかしさがあるわけですが、『医者のジレンマ』では医者という仕事の世俗的なところがデフォルメされ誇張されていています。

英語的には、医者仲間の一人がマイルドなアイリッシュ。それから家政婦さんと新聞記者がマイルドなコックニー

The Doctor's Dilemma

The Doctor's Dilemma

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