豪マコーリー大学での研修

京都府立大学欧米言語文化学科の学生が11名、オーストラリア、シドニーのマコーリー大学での研修に参加しているのに合流しました。学生さんは4週間コース。私は最後の1週間の合流です。

マコーリー大学のイングリッシュ・ランゲージ・センターの語学研修プログラムに4週間参加するのがメインなのですが、最終週に、京都について英語のプレゼンテーションをするという府大ならではの課題があります。それで、学科欧米言語文化学科の「世界遺産都市研修」という専門科目としても単位が認定されることになります(>つまり私はその単位認定のために来豪しているわけでもあります)。

語学研修プログラムには、昨年度も欧米言語文化学科の学生が3名参加したのですが、そのときは参加申し込みなどは大学経由でしたが単位認定はない個人の立場での参加でした。今年、ひとつバージョンアップしたかたちです。

昨年度来、マコーリー大学からの研修担当の方もなども府立大学に来ていただいていますし、一年前にはこちらからも同僚の先生が下見に来ていて、そうした準備段階を経て始まった研修です。

個人的には、自分が四半世紀前に留学したイギリスの大学よりも、ずーっと開放的で学生フレンドリーで楽しそうなキャンパス!という印象ですが、それはオーストラリアだからなのか、それとも2017年だからなのか。。

百聞は一見に如かず。いろいろと勉強になりますー。。
↓ランゲージ・センターの教室。

大学図書館

なお、本研修は、京都市の「京(みやこ)グローバル大学」採択事業「京都府立大学 国際京都学と和食文化を通じたグローバル人材の育成」の一環として行っています。
http://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000207591.html

『英語のスタイル―教えるための文体論入門』

『英語のスタイル―教えるための文体論入門』(豊田昌倫、堀正広、今林修編、研究社)が2月18日に刊行されます。

私は第11章「映画で学ぶ会話のスタイル」を担当し、『アナと雪の女王』『ローマの休日』『ダーク・シャドウ』『ベイマックス』『ジョージアの日記』について書きました。

2015年5月に立正大学で開かれた日本英文学会第87回大会のシンポジウム「文体論に基く英語教育再興」を基に企画された本です。私は書籍編から参加し、共著者の方々と数回の勉強会に参加させていただきました。

アナと雪の女王』でハンス王子の本性を表す文体、『ローマの休日』の王女の台詞のフォーマルな文体が引き起こす笑い、『ダーク・シャドウ』では古風な文体と70年代アメリカ口語との対比、『ジョージアの日記』のイギリスのインフォーマルな文体、『ベイマックス』のアメリカのインフォーマルな文体について、分析しています。

余談ですが、章末で『ジョージアの日記』と『ベイマックス』について、主人公は14歳で「ジャンルは異なりますが同い年の主人公が、思春期の鬱屈を抱え、自分について悩みながら、友人や大人と関わっていく様子には、国や性別を超えてどこか共通するものがあります。この2人の14歳を比較しながら、英米の若者のインフォーマルなスタイルに耳を傾けるのも面白いでしょう」(136-7)と記したのは、現在14歳児を育てている自分の生活実感に基づいたものでもあります。

こちらの目次→研究社 - 書籍紹介 - 英語のスタイル ――教えるための文体論入門のような内容です。どうかご高覧ください。

英語のスタイル −−教えるための文体論入門

英語のスタイル −−教えるための文体論入門

講演「外国語使用で笑い効果を出す映画」

日本笑い学会関東支部の第243回研究会でお話しさせていただきます。

テーマ「外国語使用で笑い効果を出す映画―『ヘンリー五世』から『シン・ゴジラ』まで―」
日時 2016年1月21日(土) 14:30−16:30 (14:00会場)
場所 台東区民会館・第5会議室(8階)
講師 山口美知代  (京都府立大学・准教授)
講演概要
 シェイクスピアの史劇『ヘンリー五世』のなかで、ヘンリーはフランスの王女に求婚するときに苦手なフランス語を使って見せます。それによって政略結婚の求婚場面は笑いをふくんだ場面として描かれます。下手な外国語を使用する状況は、当人が懸命であればあるほど、観客には笑いの源泉となるものでもあります。
 一方で、『シン・ゴジラ』の日系アメリカ人女性政治家は日本人女優が演じていることを観客が知っているために、そのいかにも流暢らしい英語に観客は喜劇的なものを感じます。
 下手な外国語も、上手な外国語も、なぜかおかしい。
 本講演では、外国語を使用することで笑いの効果を出す映画を紹介しながら、なぜそこで笑いがうまれるのかを考えていきます。
 とりあげる映画は『ヘンリー五世』、『シン・ゴジラ』、『ローマの休日』、『ダーリンは外国人』ほか、インド、中国、香港、韓国の映画など合計10本です。
参加費 1,000円

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台東区民会館は、浅草・浅草寺の二天門の脇ということで、関西人の私は、通天閣の脇やし、と言われたような気がしていささか緊張しています。。)

世界の英語を映画で学ぶウェブサイト

世界の英語を映画で学ぶ研究会のウェブサイトを公開しました。

世界の多様な英語を使った映画を取り上げ、英語特徴や文化的背景を解説しています。『世界の英語を映画で学ぶ』(松柏社)で厚かった、イギリス、アメリカ、アイルランド、オーストラリア、南アフリカ、インド、シンガポールの英語に加えて、取り上げられなかった地域の英語もとりあげました。

現在56本分で随時追加予定。科研2013年〜2015年科研研究課題「世界諸英語に関する理解を深めるための映画英語教育」(研究代表者山口美知代 研究課題番号 25370641)の研究成果の一部です。

世界の英語を映画で学ぶ

世界の英語を映画で学ぶ

『世界一キライなあなたに』

『世界一キライなあなたに』(シーア・シェアイック監督) を見ました。

ネットに流れてくる写真を見て神経質そうなイケメンとゴージャス美女の米ロマコメかと思って見に行ったら全然違って度肝を抜かれました。よくぞここまで外れた広告してるなというのと、でもそれを補って余りあるそれから映画自体のおもしろさに、ダブルで仰天。

生命倫理が主題。ウェールズ舞台です。

女性は、ウェイトレスの仕事を失ったルー(エミリア・クラーク)。彼女のの家は父(ブレンダン・コイル>ダウントン・アビーのベイツ)も失業中で生活が苦しい。男性は、2年前の交通事故で四肢麻痺となった大富豪の息子ウィルの世話をすることになります。でも実質的な介護はほとんど必要なく、仕事は「彼から目を離さないこと」

経済資本の差は文化資本の差を痛感させられる映画でした。ルーがどんどんきれいになるのは恋だけではなく、ウィルと過ごす贅沢で豊かな時間に磨かれるから。文化とは消費であり、それが洗練につながるー。

エミリア・クラークがこの役に本当によくあっていて彼女でなければここまでチャーミングな映画にはならなかっただろうと思います。「ゲーム・オブ・スローンズ」は見てないのですが、文芸物の主役にもあいそうなイギリスの女優さん。サムクラフリンもなかなかー。

「26歳になるまで字幕付きの映画を見たことがなかったなんて!」と男が言い、「31歳になるまでずっとそんなスノッブに暮らしてきたなんて!」と女が返す映画談義もいいのです。撮影監督「アバウトアボーイ」のレミ・アデファラシン。この二人の条件で身体距離をどう詰めるかの描き方がうまかった。ルーがウィルの髭を剃るシーンが、ああ、まあ、もう。

主題が議論を呼ぶものなので、賞レース関係は難しそうですが、なかなか、いい映画でした。

ダウントンアビーのお騒がせベイツ役のブレンダンコイルがお父さん役。

バラク・オバマと言語と人種

Articulate While Black: Barack Obama, Language, and Race in the U.S.

著者は、H.Samy Alim(スタンフォード大学教授、教育学・人類学・言語学)とGeneva Smitherman (ミシガン州立大学、英文学、アフリカンアメリカン・アフリカ研究)。これまでにも、アフリカン・アメリカンの言語や教育についての研究、書物がそれぞれ多数。

書名は訳しにくいが、「黒人であってもはっきりと話す」というところ。副題は「バラク・オバマ、言語、米国における人種」

2012年の大統領選の直前に書かれたもので、オバマ支持、オバマ礼賛が鮮明だが、内容的にも、社会言語学的およびアメリカ英語を知るうえで興味深い指摘が多くあった。以下、印象に残ったところをメモ的に。

書名にあるarticulateは、話し方が明瞭な、はっきりした、という形容詞。これが白人が黒人の話し方を(上から)褒めるものとして使われることが多く、アフリカンアメリカンの話者にとっては人種差別を感じさせるものである、という簡単な調査に基づいた指摘もある(研究書ではないので、統計を使っているわけではない)(ちなみに、『マイ・フェア・レディ』で、ヒギンズ教授がイライザ・ドゥーリトルにいうのも、articulateに話せ!ということ。言語態度関係では必ずでてくるarticulate)

著者たちの調査(50人)の調査によるとアジア系、ヒスパニック系には、差別と感じられないこのarticulateという語が、アフリカンアメリカンにとっては差別的に感じられるのはなぜか。ひとつには、アフリカンアメリカンは移民ではない、英語は彼らにとっては第一言語であり、そこが移民とは異なるから、という主張がなされる(白人vs黒人の軸で話が進むので、そのほかのマイノリティの話は副次的なものとして扱いがきわめて小さい)

オバマ大統領の言語分析は、全部で6章のなかの最初の3章。白人の「標準英語」の文法と、黒人の文体を巧みに操る話し方が、アフリカンアメリカンだけでなく白人の支持も勝ち得たという分析で、特に「アメリカの黒人」らしい特徴は、アメリカ的であると同時にキリスト教徒的というイメージをもたらすので、好意的に受け止められた、という分析が興味深かった。

後半は、アフリカンアメリカンの英語(AAVE)と教育にかかわる戦略的な第6章をはじめとして、書名からはずれているし、前半のオバマの言語能力(特に、文体切り替えstyleshifting能力)を褒める論調とずれていくきらいはあるが、独立した論考として読みごたえはある。

註のしっかりついた一般書(というのがあるとして)というかんじで、英語も読みやすく、授業で読んでみたいところ。

それにしても、トランプ氏などが、とるにたりない存在として描かれているあたりが、あの頃はそうだったのだな、というかんじ。オバマ大統領就任まで、遠く離れた日本にいても感じた高揚感などを思い出す。

Articulate While Black: Barack Obama, Language, and Race in the U.S. (English Edition)

Articulate While Black: Barack Obama, Language, and Race in the U.S. (English Edition)

『ラサへの歩き方―祈りの2400km』

映画『ラサへの歩き方ー祈りの2400km』の試写会にいきました。

圧巻。

チベット自治区東端の村に住む男が「死ぬ前に一度ラサへ」という叔父の願いを叶えようと巡礼を計画します。我も我もと同行者が増え、妊婦さんも加わって11人で出発することになります。ただ歩いていくのも遠いのに、数歩ごとに五体投地(地面にひれ伏す祈り)を行うので1日10km、一年がかり。

中国のチャン•ヤン監督。ドキュメンタリー的に撮影しつつ、物語は再構築されています。チベットの山や空が壮大で美しく、映画は物語と絵が揃うと強いとしみじみ思う。全行程五体投地で目的地へ、というシンプルな課題ですが、道中、大小多様な困難が発生し、その度に解決する方法が私には想定外で、とても面白かったです。

昨秋『漂う』Nowhere to call home というドキュメンタリー映画を字幕翻訳したときにいろいろアドバイスをいただいたチベット語研究者星泉さん(東京外大)監修の映画で、試写会の連絡をいただきました。パンフレットに書いていらっしゃる解説でさらに理解が深まりました。

関西では七藝と神戸アートビレッジセンター、名古屋はシネマテークなどで近日公開です。