「意味不明の言語」

「おかしなラジオ放送が流れていた」で始まる「二つの大統領選」というタイトルのニューヨーク特派員コラムのひとの署名コラムに目がとまりました(2016.4.28朝日新聞大阪本社)。マンハッタンでタクシーに乗っていたら、おかしなラジオ放送が流れてきて、それが、運転手の母国ガーナの番組だった、というものです。

「アナウンサーが英語で大統領選の話をしている。私も大統領選の取材を担当しているが、さっぱり理解できない。しばらくして私には意味不明の言語に切り替わった。「どこのラジオ?」。尋ねると、運転手のジョーさん(38)は「ガーナだよ。米国と同じ11月に大統領選があるんだ」と教えてくれた」

というようにコラムは進み、「わたしには意味不明の言語」が、ガーナのラジオ放送であったこと、運転手は15歳のときにガーナから移住した人であることがつづられます。「ガーナはラッキーだよ。米国と違って人々の憎悪につけ込むトランプ氏のような人気候補はいないからね」という運転手コメントのあと、「米大統領選の行方を移民労働者たちもきにしている」で終わるこのコラムには、「おかしな」「意味不明の言語」が何語であったかは触れられていません。

西アフリカにあるガーナは、英領ゴールドコーストに併合された歴史があり、1957年にイギリスから独立し共和国になりました。外務省サイトは、 ガーナの言語を「英語(公用語),各民族語」と記しています。この新聞コラムからはどの民族語か知るすべはありませんがー。このコラムを書きながら、何語だったか気にならなかったのかなと思いました。

このような小さなことが気になるのは、自分が同じようなことをしているからでもあります。『世界の英語を映画で学ぶ』(松柏社)を編集、執筆とき、第6章「南アフリカの英語―『第9地区』」の冒頭の概要で、「憲法では11の公用語を定めている」と書いたののち、英語、アフリカーンス語だけ名前を記して、あとは「アフリカ系の9言語」と書いていました。そこをこの章の本文を担当する執筆者から、きちんと言語名を入れてくださいと指摘を受けて書き直しました。

最初の特派員コラムに戻ると、短い記事ではありますが「ガーナの民族語のひとつだそうだ」くらいの一文は入れてほしいように感じました。もちろん、そう書いてあればそう書いてあったで、民族語のひとつって、いったい何語?と思うのかもしれませんが…。「私には意味不明の言語」であっても、そこには意味があり、話者がいる。そんなことはコラムを読めば自明のこととしてわかるのですが、興味深いコラムだと読みつつ、英語帝国主義という言葉が頭をよぎりました。