『日本のいちばん長い日』

『日本のいちばん長い日』の原田眞人監督版映画。ポツダム宣言受諾に際して、東郷外務大臣が「国体維持」について質問し、それに対して米国務長官届いた回答書からの文言をめぐって陸軍が反発する場面が、興味深かったです。

問題となったのはアメリカからの回答書にあった下記のsubject toのところ。

the authority of the Emperor and the Japanese Government to rule the state shall be subject to the Supreme Commander for the Allied Powers who will take such steps as he deeps proper to effectuate these terms of surrender.
『「ポツダム宣言」を読んだことがありますか?』(p.168)

おもしろかったのは、このsubeject toの意味を解釈するのに、陸軍側が、「ウェブスターでは<隷属する>と書いてある」と辞書を引く場面が出てきたことです。

アメリカ英語の大辞典、ウェブスターは、19世紀にすでに和訳されているので、ここで使っているのは十分ありえますね。実際に陸軍ではウェブスターだったんでしょうか。ちょっと気になります。機会をみつけて調べておきましょう。

映画原作である半藤一利の『決定版 日本のいちばん長い日』と『聖団』は、どちらも、外務省幹部は「制限の下におかる」と訳したが陸軍は「隷属する」と訳したと書いてあるだけで、参照辞書までは出てきませんー。

…回答文中にあるsubject toを軍はずばり「隷属する」と訳した。こう訳せば「天皇および日本国政府の国家統治の権限は……連合軍最高司令官に隷属するものとす」となるのである。(中略)
 外務省幹部は、このsubject toを「どうせ軍人は訳文だけをみて判断するだろうから」ときめてかかり、傑出した名訳を案出していた。「制限の下におかる」である。『決定版 日本のいちばん長い日』半藤一利(文春文庫、p.37)

なお、subject toという語は、ポツダム宣言にはなく、この回答書で初出。その後、1945年9月2日に調印された「降伏文書」にも使用されています。

ポツダム宣言(英文原文、文語体公式訳)や降伏文書(原文英文)などについては、本文に、原文語句解説や現代語訳、関連写真・年表も添えた『「ポツダム宣言」を読んだことがありますか?』(山田侑平訳・監修)がわかりやすかったです。授業でも使ってみたいところ。

「ポツダム宣言」を読んだことがありますか?

「ポツダム宣言」を読んだことがありますか?