thの発音は舌をかむ?

18日に引き続き、関西外大の音声学フォーラムに参加しました(→音声学フォーラム初日の日記はこちら)。2日目の今日は、日本、イギリスの合計9人の研究者による研究発表と、ソウル大学名誉教授Hyun Bok Lee先生の講演、Lee先生、ロンドン大学音声学夏期セミナー主任マイケル・アシュビー先生によるパネルディスカッションがありました。(→今年のロンドン大学夏期音声学セミナーについてはこちら

私は"Teaching the TH-sounds to Japanese Students"という発表をしました。thの音(thinkやthatの最初の子音。無声歯摩擦音と有声歯摩擦音)を日本の英語学習者に教えるにあたっての課題と解決法の提案について述べました。これに先立って、京都府立大学の40名あまりの学生さんにアンケート調査を行い、thの音をどのように発音するか調べました。

thの調音方法については、「舌を軽くかむ」「舌を上の前歯と下の前歯のあいだにはさむ」と理解している学生さんが多いことが調査によってわかりました。

一方、調音音声学的には、実際、英語のth音の調音では、舌は、上の前歯の裏に軽く添えるだけなのです。そして、舌と歯のあいだにはかすかな隙間を保ち、そのあいだから息を逃す「摩擦音」です。

こうした調音方法の誤解が、日本人学習者にとってのth音のむずかしさを増加しているのではないか、というのが、私の指摘のひとつでした。

これにたいして、発表後の質疑応答では、参加者のなかからアメリカ人の英語教員の方が、自分は舌を上と下の前歯の間にはさむ、という教え方で30年以上、日本人学生に英語を教えてきた。日本人にはこれくらい極端に教えてちょうどいいのだ、というコメントをされました。そして、このコメントに、そうそう、というかんじで深く頷く日本人の先生方が複数。。

一方、マイケル・アシュビー先生からは、日本人のth音は、調音位置だけでなく、調音方法にも問題があるのではないか?摩擦が強すぎて、thinkがsinkまたはshinkになる、というのが問題ではないか?というコメントをいただきました。

なるほど確かに、英語の方言・訛や世界の諸英語を見たときに、thinkのthの音がfやtになる例は(英語ネイティブスピーカーの間でも)少なくありません。一方で、sやshになるのは珍しく、「日本的」である、と言えます。

この点については、さらに考察を深め、いずれ論考としてまとめたいと思います。