『ガロア 天才数学者の生涯』

ガロア 天才数学者の生涯』(加藤文元著、中公新書)読了。1811−32、生誕200年。

「代数方程式べき根による可解性」の問題に完全な解答を与えた云々という内容について全くわからない読者(私)におもしろく読ませる本でした。19世紀欧州知識人の伝記を、21世紀日本の読者に向けて、どう書けば読んでもらえるのか、というようなことも考えながら読みました。

たとえば、『レ・ミゼラブル』『赤と黒』『モンテクリスト伯』などの小説をなじみの参照点として使っていて、随時引用もしているので19世紀前半のフランスに親しみが持てると同時に、資料が残っていない部分(周囲の状況描写)を補う役割を果たしています。

伝記的記述と政治史・社会史的な記述と数学史的な記述のバランスがいいので、読みやすいのだ思いました。先行伝記が複数あるということで、依拠しているところも多そうだが、それにしても資料があまり残っていないようで、しかも20歳で亡くなっているわけで。伝記著者泣かせだと思いますが。

おもしろかったのが、コーシーがガロアの論文への興味を失った理由の推測。「完全に理解してしまったからなのではないかと思われる。いくらいい論文でも、常に自分の研究のことで頭をいっぱいにしている研究者にとっては、一度理解してしまえば時間とともにその感動は薄れていくものだ」(113)

なるほど、数学者はそうなのかー!!!というかんじで、そういう感じ方をするということ自体が面白かったです。あと、「ガロアは臆病と思われるのが嫌だったのだろう。自尊心はやたらに強いが無鉄砲でいささか思慮の足りない若者の姿が浮かび上がる」(216)という筆者の視線が共感を呼ぶな、とか。

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書)

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書)