『文化史とは何か』

『文化史とは何か』(ピーター・バーク著、長谷川貴彦訳、法政大学出版局、2008年、増補改訂版2010年)。原書はWhat is Cultural History? Peter Burke. 2004. 翻訳者の方が『イギリス文化史』(→日記はこちら)のプロローグとして書かれた「文化史というアプローチ」がとてもわかりやすく、知識の整理に有用だったので。(第2章「政治と文化―伝統と革新の18世紀」の著者でもある)。[私の手元にあるのは、初版のほうです。。積読期間長すぎー。]

序章
第1章 偉大なる伝統 (古典的文化史、文化と社会、民衆の発見)
第2章 文化史の諸問題(古典再訪、マルクス主義の論争、伝統のパラドックス、民衆文化の問題、文化とは何か?)
第3章 歴史人類学の時代(文化の拡大、歴史人類学の時代、顕微鏡のもとで、ポストコロニアリズムフェミニズム
第4章 新たなパラダイム(四人の理論家、実践、表象、物質文化、身体の歴史)
第5章 表象から構築へ構築主義の登場、新しい構築、パフォーマンスと機会原因論脱構築
第6章 文化論的展開を越えて?(ブルクハルトの回帰、政治・暴力・情動、社会史の逆襲、文化史における物語、結論)


特に示唆的であったところ。第6章 文化論的展開を越えて より引用(2008年版から)。

 1910年代のアメリカ合衆国での「新しい歴史学」がそうであったように、「新しい文化史」という言葉は、1980年に案出されたときには魅力のある理念のように思われた。不幸のことに、新しさというものは、すぐに消え去る文化的資産である。この「新しい」文化史は、20歳以上の年齢に達している。(中略)新しい文化史のあとにくるのがより急進的な運動であるのか、それとも、これと対照的に、より伝統的な歴史学の形態との和解を見ることになるのか。 

この問いへの答えとしてー

この点でいくつかの異なるシナリオを演じるのが、たぶんもっとも有益なものとなる。ひとつの可能性として考えられるのは、「ブルクハルトの回帰」として表現されるシナリオである。この場合、ブルクハルトの名前は一種の簡略表現として用いられ、伝統的な文化史の復活の象徴となる。第二の可能性は、新しい文化史をよりいっそう多くの領域へと絶えず拡張してゆくことである。そして、第三の可能性は、構築主義に社会を文化に還元することへの反発で、それは「社会史の逆襲」と呼ばれるだろう(pp.145-7)。

上記第三の可能性についてさらに詳しくー

いまや文化論的展開を越えてゆくときがきているのであろう。ヴィクトリア・ボネルとリン・ハントが提唱したように、「社会的なるもの」の観念は、放棄されるべきものではなく形を変えねばならないのだ。たとえば、読書の歴史家は「解釈の共同体」を研究する必要がある。他方、宗教の歴史家は「信仰の共同体」、実践の歴史家は「実践の共同体」、そして言語の歴史家は「発話共同体」を研究する必要がある(p.164)。

文化史とは何か 増補改訂版

文化史とは何か 増補改訂版

ピーター・バークの『近世ヨーロッパの言語と社会―印刷の発明からフランス革命まで』を読んだのは約一年前(→日記はこちら)