『ゴスフォード・パーク』でピアノを弾くアイヴァー・ノヴェロー

衛星第2放送で、今夜9時から『ゴスフォード・パーク』(Gosford Park, ロバート・アルトマン監督、2001年)を放映しています。この映画については以前「訛りを語る男@『ゴスフォード・パーク』」という日記を書きました(→こちら)。監督お得意の群像劇で、しっかり見ていないと細部まで作りこまれた物語が追えなくなってしまいますが、キャストが豪華で芸達者で、本当におもしろい。好きな映画です。

この映画のなかで、ジェレミー・ノーザムが演じているのが、実在のイギリス人ミュージカル作者・作曲家・作詞家のアイヴァー・ノヴェロー(1893-1951)です。客間から聞えてくるノヴェローのピアノに、階下の召使たちが仕事の手を休め、うっとりと聞き惚れるシーンがとても印象的です。


実は、最初にこの映画をみたときに、私はノヴェローについてほとんど知りませんでした。その後、『ミュージカルが<<最高>>であった頃』(喜志哲雄著、2006年、晶文社)のなかで、第4章「オペレッタからミュージカルへ(I)―『踊る歳月』」が、丸々ノヴェローに充てられているのを読み、初めて、どういうひとだったのかを知りました。もっとも「…彼は、日本で知られていないだけでなく、アメリカでも知られていない」(p.81)ということなので、『ゴスフォード・パーク』を見た人の多くが、ノヴェローのことをよく知らなかったのでしょうが。

ミュージカルが“最高”であった頃

ミュージカルが“最高”であった頃

喜志先生によるとノヴェローのオペレッタの特徴はこういうものだったそうです↓

…ノヴェローのオペレッタは、題名からも察せられるように、おおむね臆面もなくロマンティックな、そして時には感傷的なものなのだ。あまりにロマンティックで感傷的なので、荒唐無稽と感じられることさえある。音楽がまた、よく言えば華麗、悪く言えば気持が悪くなるほど甘美なのだ。ウィーン風のオペレッタを模してはいるが、ほんものがもっている活気は認められないから、我々は、作者が一体どこまで本気だったのか―つまり、わざとまがいものを作ろうとしたのか、それとも、やはりほんものに接近しようとしたのか―という点について、考えこまざるを得なくなる。(『ミュージカルが<<最高>>であった頃』p.84)


ところで、この第4章では、「少し話がそれるが」として、『ゴスフォード・パーク』に言及した一段落もあります。(引用文中の「わが心のワルツ」は、『踊る歳月』の中心的ナンバーのひとつ)

 少し話がそれるが、『ゴスフォード・パーク』という映画があった。内容はフィクションだが、人物の一人としてアイヴァー・ノヴェローが登場する。そして、ノヴェローの曲が全篇を通じて利用されている。映画の冒頭で、感傷的で物悲しい曲がピアノ演奏で流れるが、あれが「わが心のワルツ」である。春の訪れを歌い上げ、やがて自分が味わう筈の恋の喜びをほのめかしている歌なのだが、メロディには、そういう内容を裏づける筈の躍動感がない。詞と曲のこういう微妙なずれが、ノヴェローの歌にはしばしば認められる。(『ミュージカルが<<最高>>であった頃』pp.87-88)

ゴスフォード・パーク - オリジナル・サウンドトラック

ゴスフォード・パーク - オリジナル・サウンドトラック