『Dr.パルナサスの鏡』と政治的に正しい(PC)表現
英語学概論/言語文化論の授業で、英語における差別表現の是正運動の話をしました。先週の、ジェンダーと言語の話(→こちら)の続きです。
政治的に正しい(Politically Correct, PC)表現について、教科書『社会言語学入門』(東照二著、研究社)に沿って説明しました。「差別的にとらえられるような言葉を避けて、中立的な言葉を使おうという動きがあり、これはPC(Politically Correct)と呼ばれている」「差別的な言葉を避けるための言い換えの例」として挙げられている例は、「議長」を意味するchairmanを、chairpersonや chairに言いかえる例ままた、handicapped(障害のある)を、physically challenged(身体的な困難に立ち向かっている)に言いかえる例など(p.167)。
この-challenged (〜の困難に立ち向かっている)という英語表現は、週末に見た映画『Dr.パルナサスの鏡』(The Imaginarium of Dr. Parnussus, テリー・ギリアム監督、2009年)にも出てきました。
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パルナサス博士の大道芸一座の一員である身長の低い男性(身長85センチのヴァーン・トロイヤーが演じています)のことを、警官がvertically-challenged(垂直方向の困難に立ち向かっている)と形容するのです。
一方で、本人とパルナサス博士の間ではmidget(小人)という言葉が使われていました。midgetは『ジーニアス英和辞典』では「ちび、小人。全体のバランスはよいものをいう。dwarfは頭でっかちで手足が短いもの。両者よりlittle peopleのほうが好まれる」と説明されています。差別的なニュアンスのある、PCでない表現ですがが、映画では、仲間うちの親しさのなかで敢えて使用されているのでした。
映画は、大道芸の鏡館の中として描かれるファンタジックな世界の楽しさもさることながら、その大道芸が披露されるロンドンの街角―高架下であったり、高級店の並ぶアーケードだったり―の猥雑な活気が魅力的でした。『サウンド・オブ・ミュージック』で美男大佐を演じていたあのクリストファー・プラマーが、老いさらばえたパルナサス博士で、なかなかの存在感でした。。息がながい役者さんですー。