『越境と内省―近代ドイツ文学の異文化像』

『越境と内省―近代ドイツ文学の異文化像』 (松村朋彦著 鳥影社 2009年)


帯の言葉
「ヨーロッパ、オリエント、アメリカ、南太平洋―異文化にかんするドイツ人の意識と思考を、旅行記、小説、詩、戯曲、オペラなどさまざまなテクストから読み解く」

第1章「イギリス旅行者たち」をまず最初に読みました。18世紀(特に1770年代、80年代)にイギリスを訪れた三人の文学者の記した体験記の分析を通じて、「たんなるイギリス像の変遷のみならず、ある種の世界認識の変貌の過程を読みとることができる」(p.18)ことが、論じられていて、とても興味深かったです。

ベルリンの学校教師カール・フィリップ・モーリッツが、1782年に書いた『イギリス紀行』で、英国議会の下院を傍聴するくだりがおもしろかったです。最初、紹介がないとだめだといって入れてもらえないけれども、宿の主人にその話をすると、守衛にチップを渡せばいいのだと教えてもらい、翌日その通りにしたら入れたとか。その後、毎日のように下院に通ったモーリッツは、旅行記に、「人間を観察したい者、このうえなくきわだった人物が、このうえなく強烈な発言をするのを眺めたい者は、下院へ行くがよい」(p.27)と記しているそうです!

越境と内省―近代ドイツ文学の異文化像

越境と内省―近代ドイツ文学の異文化像