『映画でめぐるドイツ―ゲーテから21世紀まで』

『あの日のように抱きしめて』(クリスティアン・ペッツォルト監督、2014、現在公開中!)を見たあと『映画でめぐるドイツ』のページを繰りました。(編著者は欧米言語文化学科の青地教授です)

ありました。ペッツォルト監督の前作『東ベルリンから来た女』。第7章「映画のなかのシュタージ」(永畑紗織著)の第5節(235−242)で、取り上げられています。

シュタージとは、東ドイツの国家保安省の通称である。シュタージは、国民を監視し反体制派を弾圧したり、ドイツ連邦共和国にスパイを送り込んだりといった活動を行った。(『映画でめぐるドイツ』p.214)

そのシュタージを扱ったこの章で取り上げられているのは他に『トンネル』『グッバイ、レーニン』『善き人のためのソナタ』。

シュタージという扱いづらいテーマに書かんに挑んだ上記の四つの映画は、監督・脚本ともに皆西ドイツの出身者で占められている。このことが意味することは何か。まず、他人事だから映画化できたということである。そして、東ドイツ出身者と西ドイツ出身者の社会的・文化的格差がまだ埋められていないということである。世界各国で観客を動員できるような映画を作るには、たくさんの資金と技術と素養と人脈が必要であり、それらを持ち、かつ商用映画にすることができるまでにシュタージの問題から距離をとることができる東ドイツ出身者は、壁の崩壊から25年が経過する今日でもまだ存在しないのである(『映画でめぐるドイツ』p.242-43)

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『映画でめぐるドイツ』
第1章 市民社会とその他者―ヘルツォークの映画『カスパー・ハウザーの謎』(松村朋彦)// 第2章 21世紀のファウストソクーロフファウスト』について(児玉麻美)//第3章 戦いの意義を決めるのは誰か―クライスト『ミヒャエル・コールハース』における同一性の問題(須藤秀平)//第4章 アルプスという名の神―『ハイジ』映像化作品の宗教性について(川島隆)// 第5章 メング通り四番地―トーマス・マン『ブデンブローク家の人々』における家(千田まや)//第6章 仏独関係、映画の起源と戦争―映画の前史ディオラマ、そして戦争を撮った三人のフランス映画の監督(阪口勝弘)// 第7章 映画の中のシュタージ―『トンネル』から『東ベルリンから来た女』まで(永畑紗織)//第8章 ファシズムをいかに描くか―映画『ザ・ウェイヴ』をめぐる一考察(勝山紘子)//第9章 マインホフの女性運動とエンスリーンの暗号―映画『バーダー・マインホフ』に描かれなかった「伝説」(青地伯水

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…ところで、第7章『東ベルリンから来た女』紹介のなかでは唯一俳優名が記されているロナルト・ツェアフェルトは東ベルリン出身だそう。『あの日のように抱きしめて』でも重要な役で、ひどい夫なのに(否、ひどい夫だからこそ)かっこいいのは困るわねーと気になっていたところでした。貴重な情報ありがとうございます。『東ベルリン〜』と『あの日のように〜』は主演女優ニーナ・ホスと共に続投なんですね。DVDで見てみましょう。