『裏切りのサーカス』の英語
『裏切りのサーカス』を見ながら(→映画の感想はこちら)、ちょっとおもしろいと思った英語をメモしていました。
舞台は1970年代、ロンドンの諜報部(ケンブリッジ・サーカスにあるのでサーカスと呼ばれる)。冷戦下、ソ連のKGBとの情報戦が繰り広げられ、二重スパイが暗躍しています。
このロンドンの諜報部で働くのはエリート教育を受けた階層のひとびとで、イギリス標準英語を話しています。発音明瞭で、映画を見ていて、びんびん耳に飛び込んでくるので自分の英語聴解力がとても向上しているような錯覚を覚えるほどでした(笑)――いやこれは、最近、インド英語を聞いていたので(→日記はこちら)、そう思ったのかもしれませんが。。
そんななかで、外からかかってきた電話を取り次ぐ場面。誰からの電話か?と尋ねるギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)に、取次ぎの職員がいうことばがこれでした↓
"Outside line, sir. Someone rough."
(外からの電話です。粗野な話し方をする人です。)
苦し紛れに「粗野な」と訳してみましたが、別に乱暴な内容を話したわけではないです。要は、標準英語を話していない、話し方に何かしらの「方言」がある人、ということでしょう。『ジーニアス英和大辞典』のroughの語義でいうと、「3a [言動が]粗野な、不作法な、下品な(rudeと違って、悪意はないが作法に無知なための場合もある)」。要は、諜報部で働く彼らと同じような英語を話すひとではない、ということ。
イギリス人は知らない相手が一言口をひらくと、その英語の発音から相手がどういう人間であるかを推しはかろうとする、というのはバーナード・ショーも『ピグマリオン』冒頭で揶揄したことです。21世紀の現在、標準英語(容認発音)の相対的な威信は変化していますが。この『裏切りのサーカス』は、1970年代が舞台のスパイ小説の映画。保守的で堅固な中枢のなかで暗躍する諜報員が描かれているわけですが、その保守的で堅固な中枢を英語面でも表している、イギリス標準英語(容認発音RP)満載の映画でした。
特に、ゲリー・オールドマン、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファースあたりの中心的な登場人物の印象が強いのでそう思ったのかもしれません。ベネディクトやコリンは、RPを使う役のイメージが固定していますし。ゲリー・オールドマンは、ロンドン大学夏期音声学セミナーで、ジェフ・リンジー先生が、発音(訛り・方言)の使い分けのうまいと思う俳優としてあげていました。また、私的には、キャシー・バーク演じる諜報員コニー・サックスの話し方が、ケンブリッジ大学で習った先生を思い出させて、ああこういうひといるーというかんじでした。
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