『イギリスにおける商事法の発展』

お隣の研究室の川分先生の新しい翻訳書。『イギリスにおける商事法の発展―手形が紙幣となるまで』(ジェイムズ・スティーヴン・ロジャーズ著、川分圭子訳、弘文堂、2011年)。翻訳中から、折に触れ進捗状況をきいていたお仕事です。

イギリスにおける商事法の発展―手形が紙幣となるまで

イギリスにおける商事法の発展―手形が紙幣となるまで

「訳者はしがき」より引用
訳者は、特に17世紀後半から19世紀前半のロンドン貿易商を研究しており、当時の貿易取引や決済の方法について理解を深めたいと考える中で、本書に出会った。そこで、商業史的な関心から見た本書の重要性について、一言述べておきたい。
 本書は、為替手形と手形法の調査を進める中で、為替手形が振り出される典型的な貿易取引がどういうものだったかをも明らかにしている。この典型的貿易取引方法とは、委託販売システム(コミッション・システム)である。委託販売システムとは、輸出者(業主)が、輸出先にいる代理商に商品の販売を委託するものであり、代理商の手元には業主の売上が蓄積される。典型的な為替手形は、業主がこの売上を使用するために、代理商を支払人として振り出すものだったのである。そもそも、ある者が別の者に支払いを依頼するという為替手形の形式は、委託販売システムの業主と代理商の関係に対応したものであり、委託販売システムと為替手形は不可分の仕組みだった。
 本書の事例調査は13世紀から19世紀初頭にわたるものであり、その間、委託販売システムが西洋の基本的な交易方法であり続け、為替手形はその交易方法に即して用いられたことを、示している。これは、西洋商業史上重要な事実の指摘である。西洋商業史では、為替手形についても、委託販売システムについても研究は行われてきたが、両者の関係性や、中世と近世、近代の交易方法の連続性などは、十分認識されてこなかったからである。(vii)