多言語社会研究会

第48回多言語社会研究会(東京例会。共催:東京大学東洋文化研究所班研究「アジアにおける多言語状況と言語政策史の比較研究」)で、「19、20世紀イギリスの綴り字改革運動―文化・社会的背景と言語観」という発表をしました。発表要旨(↓)のような概論のあと、拙著『英語の改良を夢みたイギリス人たち―綴り字改革運動史1834−1975』(開拓社)の第2章と、『識字と読書』(松塚俊三・八鍬友広編、昭和堂)の第10章「読み書き教育効率化と標準発音普及を目指して―19世紀後半イギリスの綴り字改革論」の内容を中心に話しました。

「文化・社会的背景と言語観」という副題について、逆ではないか?、むしろ、言語を語っているときに実は言語そのものではなく他のことを語っているのだという、そこを追究する必要があるのではないか、という指摘ほか、数々の示唆的なコメントをいただきました。今後の展開に大いに生かしたいと思います。ありがとうございました。

発表要旨
本発表では、19世紀から20世紀のイギリスにおいて英語正書法の改良を目指した綴り字改革論者(スペリング・リフォーマー)の運動の詳細を明らかにする。この運動は結果的には失敗に終わっているが、そこには国民国家成熟期固有の文化・社会的背景が映しだされている。本発表では特に、綴り字改革論者の目的・動機と、その文化・社会的背景との関係に焦点を当て、綴り字改革論の背後にあった言語観を明らかにする。それは、

(1)表音式綴り字が労働者階級の基礎教育を効率化するという考え方、
(2)表音式綴り字が言語の科学的研究に貢献するという考え方、
(3)表音式綴り字を用いれば英語はより優れた「世界語」となる、

という考え方である。