『日本語から見た日本人―主体性の言語学』

『日本語から見た日本人―主体性の言語学』(廣瀬幸生・長谷川葉子著、2010年、開拓社)

日本語から見た日本人―主体性の言語学 (開拓社言語・文化選書)

日本語から見た日本人―主体性の言語学 (開拓社言語・文化選書)

第1章 日本人は「集団主義的」か―言語学からの批判的検討
第2章 代名詞の不使用と自己志向性
第3章 日本語における独り言
第4章 伝聞の情報のなわ張り
第5章 親密さと敬い
第6章 言語使用の形態と公的性の度合い

本書は、「主体性の言語学」という副題が示すように、伝統的な日本人論とは一線を画すものである。言語学で言う主体性とは、ことばで自己を表現することである。本書は、特に、日本語に見られる個の主体性、つまり、個としての自己表現に注目し、そこに日本人の自己意識の強さが反映されていることを言語学的に論じるものである。(「はじめに」、v.)

開拓社の言語・文化選書の新刊です。とても興味深いテーマで、例文、データが豊富です。授業でもこのような主題は関心を示す学生さんが多いので(特に第5章のポライトネス関連など)、来年度の英語学概論などでも紹介したいと思います。

私にとってはじめて読む主題は、第3章「日本語における独り言」です。これは長谷川先生の研究室で行われた調査に基づくもので、24名の日本語母語話者に「各自、個室で10−15分間独り言を言ってもらい、それを録音した」データに基づき、「その際、架空の人物に話しかけるのではなく、頭に浮かんだことをそのまま声に出すよう依頼した。その他には制約はなく、被験者は部屋の中を歩き回ったり、書棚にある本を手に取ったりすることは自由だった」(80)ということです。76ページの注には、独り言をデータとして使った論文の例がいろいろ。


また、第4章(pp.111, 123-25)で、1998年に発表した拙論文「自由間接話法と情報の伝達構造:話法・引用の対照研究のために」(『京都府立大学学術報告 人文・社会』第50号、61−74)の参照、引用があり、自分の発表した論文がより大きな発展した枠組のなかに位置づけられているのを見て、とても嬉しかったです。1990年代初めに引用・話法の日英対照研究を始めたときに、最初に参照したのが、『月刊 言語』(昨年末の休刊が惜しまれます!)の引用特集で、廣瀬先生のご論考を最初に読んだのもそのときでした。