『バレンタインデー』の多民族社会という背景

バレンタインデー』(Valentine's Day, 2010年、ゲイリー・マーシャル監督)を見ました。ロサンゼルスを舞台に、バレンタインデーの15人の男女の様子を描いた恋愛群像劇。手堅くおもしろかったです!バレンタインのプレゼントの花束を贈るのに忙しい花屋の男性、理想の男性にめぐりあったと浮かれている小学校教師の女性、好きなひとに花を贈ろうとお小遣いをはたいている男子小学生、などなど、それぞれの状況が描かれ、だんだん、互いのつながりが見えてきます。そして、物語の最後に、パズルのピースがぴったりはまって、お見事、というかんじ。

ロンドンを舞台にクリスマスの様子前後の群像劇を描いた『ラブ・アクチュアリー』のアメリカ版という前評判を聞いてはいたものの、実は、あまり期待していなかったのですがー。ウェルメイドな脚本と、華のある俳優陣、それから、要所要所できちんと笑いをとっている作り込み(特に車関係!)が、おもしろかったです。

バレンタインデー オリジナル・サウンドトラック

バレンタインデー オリジナル・サウンドトラック

前面で取り上げられているわけではないのですが、「多民族社会」というのもひとつの鍵で、随所に多言語社会・多民族社会を意識した台詞が出てきました。なるほど、LAを舞台に群像劇を描くときに、このような「多様性」でアクセントをつけるのだと、興味深かったです。

たとえば、花屋を訪れる女性は花を注文する英語の、外国語訛りが強すぎて、店員には聞きとれず、Speak English! (英語を話して!)と怒鳴られます。女性客は、もちろん英語をしゃべっているわけで、Chrysanthemum(菊)と言っているのが、映画を見ている観客にはわかるのですが、どうやら店員にはわからないらしい。「どこ出身だ?」「ブルガリア」というやりとりがあって、店員は、Does anyone speak Bulgarian English?(誰かブルガリア英語がわかるひとは?)と店内に呼びかけ、ヘルプを得る、というような展開です。


インド系移民の様子が描かれたり。アン・ハサウェイが、電話に出て相手を確認したとたん、突然、ロシア語訛りの英語を話しだしたり。告白の成否について話すなかで出てきた、". . . prepared for the worst --- immigrant mentality." (最悪の場合に備えている---移民のメンタリティだ)という表現も、印象的でした。


気楽につるつると見られる王道ロマコメですが、細部が丁寧だなあという印象を持ちました。