バラク・オバマと言語と人種

Articulate While Black: Barack Obama, Language, and Race in the U.S.

著者は、H.Samy Alim(スタンフォード大学教授、教育学・人類学・言語学)とGeneva Smitherman (ミシガン州立大学、英文学、アフリカンアメリカン・アフリカ研究)。これまでにも、アフリカン・アメリカンの言語や教育についての研究、書物がそれぞれ多数。

書名は訳しにくいが、「黒人であってもはっきりと話す」というところ。副題は「バラク・オバマ、言語、米国における人種」

2012年の大統領選の直前に書かれたもので、オバマ支持、オバマ礼賛が鮮明だが、内容的にも、社会言語学的およびアメリカ英語を知るうえで興味深い指摘が多くあった。以下、印象に残ったところをメモ的に。

書名にあるarticulateは、話し方が明瞭な、はっきりした、という形容詞。これが白人が黒人の話し方を(上から)褒めるものとして使われることが多く、アフリカンアメリカンの話者にとっては人種差別を感じさせるものである、という簡単な調査に基づいた指摘もある(研究書ではないので、統計を使っているわけではない)(ちなみに、『マイ・フェア・レディ』で、ヒギンズ教授がイライザ・ドゥーリトルにいうのも、articulateに話せ!ということ。言語態度関係では必ずでてくるarticulate)

著者たちの調査(50人)の調査によるとアジア系、ヒスパニック系には、差別と感じられないこのarticulateという語が、アフリカンアメリカンにとっては差別的に感じられるのはなぜか。ひとつには、アフリカンアメリカンは移民ではない、英語は彼らにとっては第一言語であり、そこが移民とは異なるから、という主張がなされる(白人vs黒人の軸で話が進むので、そのほかのマイノリティの話は副次的なものとして扱いがきわめて小さい)

オバマ大統領の言語分析は、全部で6章のなかの最初の3章。白人の「標準英語」の文法と、黒人の文体を巧みに操る話し方が、アフリカンアメリカンだけでなく白人の支持も勝ち得たという分析で、特に「アメリカの黒人」らしい特徴は、アメリカ的であると同時にキリスト教徒的というイメージをもたらすので、好意的に受け止められた、という分析が興味深かった。

後半は、アフリカンアメリカンの英語(AAVE)と教育にかかわる戦略的な第6章をはじめとして、書名からはずれているし、前半のオバマの言語能力(特に、文体切り替えstyleshifting能力)を褒める論調とずれていくきらいはあるが、独立した論考として読みごたえはある。

註のしっかりついた一般書(というのがあるとして)というかんじで、英語も読みやすく、授業で読んでみたいところ。

それにしても、トランプ氏などが、とるにたりない存在として描かれているあたりが、あの頃はそうだったのだな、というかんじ。オバマ大統領就任まで、遠く離れた日本にいても感じた高揚感などを思い出す。

Articulate While Black: Barack Obama, Language, and Race in the U.S. (English Edition)

Articulate While Black: Barack Obama, Language, and Race in the U.S. (English Edition)